受け身の子が、自分から動き出すまで
どのように関われば良い?

放課後児童クラブで支援員をしています。小学3年生の翔太くんは、自由時間になるといつもスマホで動画を見ているか、ぼんやりと座っています。「何かして遊ぼうよ」と声をかけても「何していいかわからない」「やったことないし」と消極的です。他の子が楽しそうに遊んでいるのを見ても加わろうとしません。

とある放課後児童クラブ

「やったことがない」を「やってみたい」に変える、
体験の入口をつくる

 「何していいかわからない」という翔太くんの言葉は、怠けや拒否ではなく、楽しみ方の引き出しが少ない状態のサインです。この段階でいきなり「自分で選んでごらん」と促しても、翔太くんには選ぶ材料がありません。こんなときに役立つのが、支援者が一緒にやることから始めて、徐々に自分で楽しめる段階へと導く「ヘルスプロテクション・ヘルスプロモーション(HP/HP)モデル」という実践モデルです。

 このモデルは、良好な健康状態の獲得を最終目標に、「意図的活動」「レクリエーション」「余暇」の3 つの段階で支援を組み立てる考え方。大切なのは、これらが個別ではなく、連続した支援のプロセスとして機能する点です。翔太くんの場合、まずは「一緒にやってみよう」と誘って参加してもらうところからスタート(意図的活動段階)。「これ楽しい」と感じられればレクリエーションの段階に進み、さらに「次はこれをやってみたい」と自分から選べるようになれば、余暇の段階に到達します。
 
 翔太くんに必要なのは、「自分から動いてみよう」という励ましではなく、一緒に楽しむ体験を重ねながら、少しずつ主体性のバトンを渡していく関わりです。

支援者主導から主体的な楽しみへ導く「HP / HPモデル」

支援者主導の「意図的活動」から、本人が主体的に楽しむ「余暇」へ。3つの段階は連続したプロセスとして、翔太くんの変化を支えます。

支援者の関わり

地域の健康サロンでボランティアをしています。
78歳の幸子さんは、半年前に自宅で転倒してから、
体操の時間になると「また転んでしまうから…」と、椅子に座ったまま参加しようとしません。
サロンには顔を出してくれているからこそ、自信を取り戻して欲しいと思っています。
どのように関わっていけばいいでしょうか。

<解決策!>
小さな成功体験の積み重ねで、「できない」を「できるかも」に。

 サロンに通ってくれているということは、幸子さんの中に「このままではいけない」という気持ちがある証拠であり、人との交流は拒んでいない状況だと思われます。その気持ちを大切にしながら関わっていきましょう。

 転倒などの失敗体験がきっかけで「自分にはもうできない」と思い込んでしまう状態を「学習性無力感」といいます。この状態が続くと、本当はできることにも挑戦しなくなり、心身の機能低下を招く悪循環に陥りやすくなります。
「これならできるかも」と思える小さな目標から始めることが大切です。
たとえば、座ったままできる手指の体操や、歌に合わせた体操など、他の参加者と一緒に楽しめるもので参加意欲を引き出しながら、成功体験を一つずつ積み重ねることで、「できた」という実感が生まれ、「次もできるかもしれないから、挑戦してみよう」という意欲につながります。焦らず、本人のペースに合わせた段階的なアプローチを心がけることが、行動変容への第一歩となります。

小さな一歩から、習慣をより良く変えていく「行動変容の理論」

習慣化された行動パターンをより良い方向に改善することを「行動変容」といいます。この過程で重要なのが、失敗経験から「できない」と思い込む学習性無力感の克服と、「できるかもしれない」という自信を持たせる自己効力感の向上です。

レクサークルをつくり高齢者サロンを中心に活動しています。
レク支援やボランティアに興味がある人がスポット的に手伝いに来てくれることはありますが、
その後が定着しません。一度参加してくれた人がもっと定着してくれるようにしたいのですが、
どのような工夫が必要でしょうか?

<解決策!>
新しいスタッフの定着に、「ウェルビーイング」の考え方を取り入れてみては?

ボランティアで参加してくれた人が、「スポット的な手伝い」で終わらず、継続して関わってもらうためには、参加者がその現場でウェルビーイングにつながる“幸福感”や“やりがい”を感じられる体験を設計することが大切です。「ウェルビーイング」とは「心身ともに満たされた幸福な状態」と訳される概念で、健康状態の良さだけでなく、心の豊かさや社会的つながりも含めた幸福感のことをいいます。
例えば、『感謝の可視化』。初回や2 回目の参加時だけでなく、継続的に「あなたがいるから助かっていると伝えてみることで相手の承認欲求が満たされやすくなります。さらには、小さな打ち上げを開催し、『活動の振り返り』をしてみることで、関係性が深まり帰属意識が高まるといったことも期待できます。また、ウェルビーイングを満たす方法として有効なのが「PERMA モデル」というポジティブ心理学の理論です。この理論は、レクリエーションを受ける側(利用者側)に用いられることが多いのですが、今回のようにレクリエーション活動を提供する側にも有効ですので、ぜひPERMA モデルの考え方を取り入れてみることをおすすめします。

P E R M A モデルとボランティアスタッフ定着の工夫

PERMA モデルは「ポジティブ感情」「エンゲージメント」「良好な人間関係」「意味・意義」「達成感」の5つの要素で構成されています。
ここでは、ボランティアスタッフの定着という視点で、PERMA モデルを活用したアプローチを考えてみます。

終了後すぐ「今日は来てくれて本当に助かった!」など、感謝や喜びを言葉やちょっとしたカード・メッセージで伝える。その日の楽しかった出来事や嬉しかった場面を一緒に振り返る時間(共有タイム)を設ける。

初回からその人の「得意」「関心」をヒアリングし、小さなチャレンジの機会(例:レクの小道具づくり、写真係など)を用意し、特技を活かせる体験を用意する。

歓迎ムードをつくり、「仲間」として紹介や雑談の機会を設ける。スタッフや常連ボランティアが「気軽な相談係」になり、LINEグループやSNSでのフォローを行う。

LINEなどのグループの中で次の計画を一緒に考え、その人が手伝ってくれる意味を伝え、意見なども肯定的に受け止める。

その日のタスクや活動を無事終えた際、グループや全員から「お疲れ様、ありがとう!」と全員で拍手や称賛をおくる時間をつくる。

小学4年生のクラス担任をしています。最近、ある男子児童の元気がありません。
他の児童との交流も少なく、声をかけられても消極的です。「最近何かあった?」と直接本人と話をしてみましたが、「僕なんか」「どうせ楽しめない」といった、以前は聞かれなかった否定的な言葉が多く、とても心配しています。

解決策!
ネガティブ感情が心を支配する前に、ポジティブ感情への転換を。

まず、元気のない男子児童が、なぜ「元気がないのか」、なぜ「自己否定的な言葉を発するのか」、その原因がどこにあるかで対応方法も変わってきますので、しっかりとアセスメントすることが大切です。その上での話になりますが、一般的に、高学年は自我が確立され、人と比較したり、コンプレックスを抱いたり、悩みが生まれやすい時期と言われています。日常のちょっとした失敗やつまずきによってネガティブな感情が生まれ、「自分はダメなのではないか」と、どんどんマイナス思考にとらわれていく可能性があります。支援者としては、児童がそうした負のスパイラルに陥らないようにすることが大切。
児童が好きなことや得意なことを見つけ、成功体験を増やしていくなど、無理に友達と遊ぶのではなく、「児童が何をやりたいか」、先生はその機会やきっかけをつくり、思考回路そのものをポジティブに変えていくことが第一です。
自分に自信がつくことで、苦手なものにも取り組んでみようという思考も生まれ、友達とのつながりも自然とできてくるかもしれません。

前向きな気持ちの循環をつくる拡張形成理論

拡張形成理論は、ポジティブ感情が人間の成長や幸福に重要な役割を果たすことを説明する理論です。ネガティブな体験が続くと感情に支配され、思考が狭まり、何をしても楽しく感じられず、前向きに生きられないネガティブスパイラルに陥る可能性があります。一方で、楽しさの継続的な経験を通じてポジティブな感情を増やすことで、個人の強みや能力の向上を支援でき、どんなことも前向きに捉えられる心の土台がつくられます。どんな人でもポジティブ感情とネガティブ感情を持ち合わせていますが、その比率が約3:1 程
度であれば、持続的な幸福に導くと考えられています。

以前から地域の高齢者サロンでレクリエーション支援を行っています。
毎回参加してくれる方は7〜8名で全員が女性です。男性にも参加していただきたいのですが、なかなか集まらず、一度参加されても続かないことがほとんどです。どうにかして定着させることはできないでしょうか?

解決策!
「人生の先輩」という尊敬の念を込めて、相手に頼ることもレクの支援のひとつです。

地域のサロン活動などで「男性の参加者が少ない」ということは、多く聞かれる悩みです。介護予防、引きこもり予防、地域とのつながりづくりという面で男性にも参加を促したいものです。誘い文句も漫画にあるように「山田さん、また次回もお越しくださいね」でも、もちろん大丈夫なのですが、山田さんを頼りにしていることを伝えれば、さらに来て欲しい思いは伝わります。例えば、「もしよろしければ、こういうレクをやりたいので、山田さんのお力をお貸しいただけませんか?」というように、誘い方を変えるだけで、尊敬していることを感じてもらいつつ、参加しようという感覚を持ってもらえるのではないでしょうか。また、実際のレク活動でその男性に役割を持ってもらいながら進めていくことで「自分が必要とされている」という自尊心が保たれ、次回以降の参加につながる可能性も高まります。頼る、役割を持ってもらうという行為は、マズローの欲求5段階説の中の「承認欲求」にも通ずるものがありますので、ぜひ試してみてはいかがでしょうか?

マズローの欲求5段階説とは?

マズローの欲求5段階説とは、人間の欲求を5段階で表した心理学理論です。人は段階を追って低次から高次へと欲求を満たし、最終的には自己実現を目指していくと唱えています。

特に上位3 つの欲求は良好な集団の中で満たされる欲求。自身の存在価値を発揮できることで満たされていきます。なかなか参加を継続してくれない今回の男性のように、人に必要とされ、能力を発揮できる居場所の提供は、参加へのきっかけづくりはもちろん、継続するモチベーション、最終的には本人の心の元気づくりにもつながっていきます。

ボランティアで地域コーディネーターをしています。事業の1つで、同じ中学に進む小学6年生同士が交流するイベントを開催しました。同じ学年同士だからすぐに打ち解けるだろうと、グループ対抗戦を始めたら、盛り上がることもなく、淡々と終わってしまいました。

【解決策!】
段階的なコミュニケーション促進で自分らしさを出せる場づくりを優先させてみてはいかが?

中学に入ってから、スムーズに打ち解けられるようにと、違う校区の小学6年生を集めて交流イベントを実施している自治体もあるようですね。ただ、同じ6年生でも、小学校が違えば初対面だと、気恥ずかしさや緊張があるものです。いきなりのグループレクは難しいかもしれません。そこで大切になってくるのが良好な集団をつくるための場づくりです。できれば、アイスブレーキング・モデルに沿ったプログラムの展開で、支援者と参加者で楽しむもので、一人ひとりの心をウォーミングアップさせることから始めましょう。声が聞こえ始め、笑顔が見えることで、次第に子どもたちの心は氷解し、「もっと笑っていいんだ」、「もっと自分を出していいんだ」という想いも湧き始めます。急がば回れとはいいますが、いきなり子どもたちの主体性を期待するよりも、段階的なコミュニケーションで子どもたちが自分を出しやすい場づくりを意識してみることが、初対面同士が集まるイベントでは有効になってきます。

アイスブレーキング・モデルは「導入」「交流」「発展」の3段階が基本

レクリエーション活動の組み合わせ方を、アイスブレーキング・モデルといいます。このモデルは、導入段階、交流段階、発展段階の3段階になっています。
(1) は、レクリエーション・インストラクターと対象者の間の1対1の関係が中心
(2) は、全体が交流できるもの。対象者2人から4人、4人から8人へなどと段階的に広がる
(3) は、交流段階で形成された小グループ内のコミュニケーションを 小グループ間のコミュニケーションへと発展させることで、良好な集団づくりへとつながっていきます。

段階をおったコミュニケーションの促進